深夜にいる(香納諒一)
やたら雨が降っているけど、なんだか湿度の低い、乾いた感じの短編集。
私はものを知りませんが、こういうのをハードボイルドと呼ぶかな?違う?
6編収録されているけど、全てが若き日の夢や希望を失った大人のみなさんが主人公。
1編目、「道連れ」の太郎さんが大変格好良くて好みです。
全編を通して、問題は概ね片付かないんだけど、それでもオチはつくんだね、と思いました。
そのくらいが人生なんかもしらん。
5編目の紅一点、「声の連関」の女性主人公だけ異色かな、なんかこいつだけただのアホでなんなんだ。
そんな感じ。
短編集の感想の書き方がわからない、そんな私より愛を籠めて。
櫛木理宇/爪切男/中村文則/下村敦史
こういう日があってもいい。
■世界が赫に染まる日に(櫛木理宇)
少年犯罪(加害者)vs少年犯罪(被害者家族)。
理想の中二的なカッコ良さ、現実の「こんなもんよね」感、私は好き。
私は被害者にも被害者家族にもなったことがないため、「もし被害者(家族)になったら加害者を陥れたいなあ」と軽率に思っていたんだけど、そういうことじゃねえんだな、と考えを改めました。
これは私個人の感覚なので異論は全力で認めますが、バッドエンドだと思いました。
表紙がかっこいい。
■死にたい夜にかぎって(爪切男)
よくわからんで読んだら、物語ではなく自伝だった。
自伝って、感想が難しい…他人様の人生に批評だ感想だってしていいのかな。
強いて言うなら文章がすごくインターネットって感じ(ex.品田遊a.k.aダ・ヴィンチ・恐山)
でも当時「なし水」は買ったのである。安かったから。
坊主頭で眼鏡の男性が会計してくれたので、まさか?と思うがそこはけつのあなカラーボーイのスペースだったので、別の坊主眼鏡だったかもしれない。
■私の消滅(中村文則)
私は誰、あなたは誰、俺がお前でお前が俺で。
前情報なしで読んだ方がいいと思うし、その発想は無かった!
とは思うんだけど全体的に稚拙。
悪い意味でラノベ。
あとがきがしゃらくせえ。
■闇に香る噓
全盲の元老害おじいさんが、疑心暗鬼で猛烈に暴走、読者に心配をかけまくる乱歩賞受賞作。
中国残留孤児である兄が帰国した…のはいいんだけど、こいつ本当に兄貴か?と疑ってみたら止まらない。
そんなおじいさんがチラチラと老害の名残を見せてくるのでヒヤヒヤする。
伏線が丁寧に張られていて面白いんだけど、丁寧すぎてダルくもある。
映画や漫画っぽいと言ったら近いかな…そういう文法で小説書かれたらしつこいと思います。
出版時に改題してるんだけど、乱歩賞受賞時の批評で改題前のタイトル「無縁の常闇に嘘は香る」が全否定されてて笑ってしまった。
改題後も、旧字体の「噓」がちょい鼻につく。
以上です。
さあ、地獄へ堕ちよう(菅原和也)
怖い!!!
M女のミチちゃんがお友達の仇討ちに奔走する、横溝正史ミステリ大賞受賞作。
帯に「ボリスヴィアンの再来」とあったので、「おう、やってみろ」と思った。
色んな書評とかでも言われてるように、若干の残虐表現や身体改造描写があるので嫌な人は嫌かもしれない。
でも主人公がしてるのはせいぜいボディピアスくらいなものだし、そっちを期待して読むものではない。
ていうか、作者はなんにもしたことないかもしれない。
私もボディピアスだけはいくつか開けており、セルフに失敗して血まみれになったりもしたので、なんとなくこう「イメージ上のボディピ」って感じがした。
ボディピも開けてない人がいきなり、皮剥がしたり埋め込みとかしないだろうしね。
あと文章が稚拙な一人称なので、そのへん神経質な人は気持ち悪いかもしれない。
山田悠介よりはマシかなくらいです。
じゃあ何が怖いのか。
主人公が怖い。
中盤くらいまでの主人公ミチはびっくりするほど頭が悪いが、それなりの正義感を備えた常識人のように思える。
自分がバカチンなのも理解しているので、困ったら躊躇なく他人を信頼し頼ることができる、という長所を持つ素直でかわいい奴である。
こいつのとこに転がり込んでくる幼馴染男タミー(本名:タミオ)が「人間を一覧から選択し殺害すると寸志がもらえる」というアングラサイトをチラ見せしたからもう大変。
全ての長所が逆転し、手のつけられないハードコアな素直バカと化す。
素直なので、良かれ悪しかれ信じた人間は疑わない。
バカなので他人の言葉の行間は読めないけど結論は出しちゃう。
ハードコアなので信じる結論のためなら何でもする。
一人称の小説なのに主人公の理屈が全くわからない。
怖い。
なんなら内面なんてほとんど描かれないトリックスター的人物や悪役の方の心情のほうがよくわかる。
文章が稚拙だからミチが怖いのか?頭が白痴なミチの一人称だから文章が稚拙なのか?
それすらもわからない。
怖い。
だんだんとミチ自身がミステリーに変貌していく。
ミステリー小説を読んでいるつもりが、気付いたらミステリー本体の日常を覗き見していました。どうしたらいいでしょうか?(東京都:会社員)
ところで。
ボリスヴィアン作品は、一言で表すなら「不条理な暴力」であると私は思う。
なので菅原和也ではなくこのミチこそが「ボリスヴィアンの再来」なのかもしれない。
不条理が不条理なりの理論を持つあたり新感覚でもある。
これは横溝正史もボリスヴィアンも納得の新しいミステリー小説、なのではないでしょうか!?
仄暗い水の底から(鈴木光司)
映画有名すぎて書籍の形で見たことない人多数派説。
映画では黒木瞳扮する主人公の「私は何がどうあれエレベーターを使うんだ」という鋼の意思が印象的だった。
プロローグとエピローグを除いて7つの物語が収録されている短編集。言うほどホラーとしては怖くはない。
基本カッチリした文体をたまに崩してくる(〜している、〜していた、等の「い」をなぜか抜く)ので「んっ?」てなる。
私は間抜けなので4つ目くらいまで長編だと信じており、映画原作の母子が再登場するのを心待ちにしていた。
Googleマップと並べて読むと、登場人物がだいたいどのへんに立ってるのかわかってちょっと楽しい。
別途有名な映画の「震える舌」、あれもこのへんの話だったね(※原作未読)
水って、閉じ込めてる間はかわいいものだけど、コントロールがほぼ利かなくて怖いと思う。
その証拠に、少しだけの水でもこぼしたら手に負えない。乾かないし、びちゃっとして不快。
ちょっと多めに集合されたらもうアウト。甘んじて身をゆだねるしかなくなってしまうしゲームオーバーだし。
しかも生死の概念がないから、だいたいのものは巻き取ってしまう。ウイルスも細菌も、毒も薬も。
かといって水がなければ地上の生き物オールアウトでみんな死んじまうしな。
でかくて強くて中立している水。
その最大の集合体である海、それを埋め立てた土地。誰しもうっすら怖くて当然じゃないかしらと私は思う。
海に囲まれた地震大国の日本人なら特別、そうではないかしら。
リング的な「おばけこわい!」を求めるならがっかりしちゃうかもだけど、タイトル通りの「仄暗い水の底」を満喫できる一冊でありました。との事でした。
君の膵臓をたべたい(住野よる)
「小説家になろう」作家の出版1作目だそうです。
私は、なろう系だからとラノベラノベ言うのは違うと思うし、そもそも「ライトノベル」が貶し言葉になるのは違うと思う。
ただこれは悪い意味でラノベ。
誰だって必ず死ぬ。余命宣告を受けた人も受けない人も、次の1秒が必ずしも訪れるわけじゃない。だからこの「今」を精いっぱい大切に生きよう。
…っていう話だと思うし、それはラノベでも書けるテーマだと思うんだけどね。
やれやれ系無名イケメン主人公と死に至る病を抱えた天真爛漫美少女ヒロインの泣けるムズキュン☆青春ラブストーリー(全体的にどっかで見た)!
…って言い換えてしまっても違和感がない。
そこがほんと良くないと思う。
主人公の男子高校生・やれやれ君は、ひょんなことから(って言いたい)ヒロイン・さくらの「共病文庫」なる闘病日記を見てしまう。
そこから始まるストーリー、っていうかストーリー自体は結構どうでもいい。
さくらの病気もどうでもいい。もはや何の病気かわからんし。なんか闇夜に光り輝いたりするよりマシだ。
つまりは生きること、命の価値を懇々と説いている。もうそれだけ。
スー…と読めてしまったところ唯一鼻についたのが、さくらの親友・恭子。
またこいつはやれ君に対してやたらと「殺す」とか言うのね。
(さくらを傷つけたら/おかしな真似したら)殺す、と。
やってみろよって話よ。
何らかの漫画に影響を受けたちょっと痛い子なのかもしれないね。
でもこんな、全編にわたって命を、生と死を説いている中でこの「殺す」は受け付けられない。
「許さない」とかでいいでしょう。
また悪いことに、ヒロインであるさくらまで「殺されればいい」と軽口を叩く。
これのせいで、「なんか軽いのは1作目だからで、作者は伝えたいテーマをしっかり持っているんだ」ってのが自分の勘違いに思えてくる。
「ただ薄命美少女とのムズキュン☆青春書きたいだけなんだな」と。
そういうふうに伝わった結果、イケメン映画の原作になっちゃったんじゃないの、と意地悪を言ってこの感想文を終わります。
穴(小山田浩子)
表紙のデザインが好きだな!
2014年?そのくらいに芥川賞を受賞してるそうだ。
鄙びた風景が目に浮かぶ。蝉の声、草の匂い、湿気の重さ。
そんな遠くの現実を快適なおうちにいながら体験させる、描き出した現実を少しだけ捻じ曲げる高い技術。
…で、(これはほんと認めるけど)頭も感性もイケてない私にとっては「いつまでも始まらないお話」。
純文学ってそういうとこあるよね…好きじゃない人にとっては永遠にAメロが続く(ように聞こえる)ミニマルテクノのようだよ。
※個人の感想です。
夫の転勤の都合で田舎に引っ越したタイミングで専業になった主婦がボケ老人にビビり倒し、慣れない環境と暇も手伝ってノイローゼを患う話。
※個人の感想です。
認知症の人間ていうのは、若い人とは違う世界を見て、生きているから、ある種「不気味の谷」状態なんですよね。
ついでに言うと「子供」というのも、あいつらは脳機能が発達過程にある関係でちょっと違う世界を見るので、大人から見ると「不気味の谷」状態になりやすい。
引っ越した田舎で主人公が出会うのは、認知症の老人、子供たち、所作言動の全てがガイキチじみた男性。
それらへの道を導く謎の獣。
これ、普通に元気なときだったら、めんどくせーなーの一言で終わっちゃうと思う。
全ての条件が悪い方向へ重なると人間はこうなる、という事例のように私は読んだ。
また作者が筆力おばけだもんで、これ真剣に感情移入して読んだら読者も気を病みそう。
現実的な思考や感情の動き、そこにストーリーなどないから、いつまでも何も始まらないように感じる。
私には合わなかったな…
同時収録の「いたちなく」「ゆきのやど」これは、流し読みしてしまった。
「いたちなく」でいたちを溺死させる(害獣だからね)話をするところが読めず、飛ばしてしまったからだ。
私は2匹のおフェレット様に日々全力でお仕え申し上げ奉っておりますため、主人と同族のおいたち様への狼藉はまったく耐え難い描写だったのであります。
ちなみに私、ミニマルテクノは大好きです。
都市伝説セピア(朱川 湊人)
タイトルがダサい。
映像化したやつがAmazonプライムで無料対象になっていた。
あまりにもダサいタイトルに引き気味だったので見てないんだけども、書籍という物体としてでてきたら手が出た。
そんなかんじ。
時代が時代なら、星新一や筒井康隆みたいに世にも奇妙な物語の原作常連になっていただろうな、と思う。
…ということは感想が書けない。ネタバレになったらもう読む意味がないから。
唯一言えるとするなら一話が長い。ダラダラともう長すぎ。
半分くらいの文字数まで削ってくれたら個人的にはもう完璧。
とりあえずタイトルがダサい。