さあ、地獄へ堕ちよう(菅原和也)
怖い!!!
M女のミチちゃんがお友達の仇討ちに奔走する、横溝正史ミステリ大賞受賞作。
帯に「ボリスヴィアンの再来」とあったので、「おう、やってみろ」と思った。
色んな書評とかでも言われてるように、若干の残虐表現や身体改造描写があるので嫌な人は嫌かもしれない。
でも主人公がしてるのはせいぜいボディピアスくらいなものだし、そっちを期待して読むものではない。
ていうか、作者はなんにもしたことないかもしれない。
私もボディピアスだけはいくつか開けており、セルフに失敗して血まみれになったりもしたので、なんとなくこう「イメージ上のボディピ」って感じがした。
ボディピも開けてない人がいきなり、皮剥がしたり埋め込みとかしないだろうしね。
あと文章が稚拙な一人称なので、そのへん神経質な人は気持ち悪いかもしれない。
山田悠介よりはマシかなくらいです。
じゃあ何が怖いのか。
主人公が怖い。
中盤くらいまでの主人公ミチはびっくりするほど頭が悪いが、それなりの正義感を備えた常識人のように思える。
自分がバカチンなのも理解しているので、困ったら躊躇なく他人を信頼し頼ることができる、という長所を持つ素直でかわいい奴である。
こいつのとこに転がり込んでくる幼馴染男タミー(本名:タミオ)が「人間を一覧から選択し殺害すると寸志がもらえる」というアングラサイトをチラ見せしたからもう大変。
全ての長所が逆転し、手のつけられないハードコアな素直バカと化す。
素直なので、良かれ悪しかれ信じた人間は疑わない。
バカなので他人の言葉の行間は読めないけど結論は出しちゃう。
ハードコアなので信じる結論のためなら何でもする。
一人称の小説なのに主人公の理屈が全くわからない。
怖い。
なんなら内面なんてほとんど描かれないトリックスター的人物や悪役の方の心情のほうがよくわかる。
文章が稚拙だからミチが怖いのか?頭が白痴なミチの一人称だから文章が稚拙なのか?
それすらもわからない。
怖い。
だんだんとミチ自身がミステリーに変貌していく。
ミステリー小説を読んでいるつもりが、気付いたらミステリー本体の日常を覗き見していました。どうしたらいいでしょうか?(東京都:会社員)
ところで。
ボリスヴィアン作品は、一言で表すなら「不条理な暴力」であると私は思う。
なので菅原和也ではなくこのミチこそが「ボリスヴィアンの再来」なのかもしれない。
不条理が不条理なりの理論を持つあたり新感覚でもある。
これは横溝正史もボリスヴィアンも納得の新しいミステリー小説、なのではないでしょうか!?